なぜネットには文章の読めない人がいるのか

2022/03/13

論理

 ネットに書き込みをしていると、こちらの文章はせいぜい中学校の国語レベルの簡易さなのにもかかわらず、まったく理解せずに見当外れの反論をしてくる人に出くわした経験のある人はけっこういると思う。
 大抵の人は小・中・高校で国語の授業を受けている。日本の国語教育は読解ばかりだったのだから、文章は読める筈だ。なぜ簡単な文章が読めないのだろうか。
 その理由は主に3つ考えられる。

感情的になっている

 「人間は感情にかられて行動するが、あとから理性によって弁解する」

 これは、なだいなだ『透明人間街をゆく』(1973)に書かれている言葉だ。つまり人はまず感情によって行動し、後からその行動を正当化する理屈を考える、ということだ。

 大抵の人は国語の授業を受けていると書いたが、国語の授業で使われる教材は古い小説の一部などであり、人の感情を強く刺激するものではない。
 それに対し、ネット上では過敏な話題が盛り上がりやすい。一般的に政治・宗教・野球の話題は避けろと言われるが、それだけでなく年収・学歴・容姿・年齢・性別・差別・表現規制・フェミニズム・LGBT・ヴィーガンなど、日常の中に入り込みやすく紛糾しやすい話題がたくさんある。

 話題の中にそれらの要素が入っていると人々は過敏になり、冷静に文章を読めなくなる。自分の信念を正当化しようとし、感情的になる。自分の都合のいいところだけ読み取り、都合の悪いところは無視し、ときには書いてないことまで読み取る。

 実例がある。
 新聞記事きちんと理解せずに「怒り」 大川小遺族に「殺人予告」した元講師の思い込み
 東日本大震災の津波で犠牲となった大川小学校の児童らの遺族が宮城県と石巻市を訴えて勝訴した新聞記事を見て、元講師の男性(40代)は「亡くなった教師が責められている」と思い込み、児童遺族に「殺人予告」などと書いた文書を送りつけた。

 この男性は小学校の講師として働いていたことがあり、学校安全に関心を持って大学院で研究していたという。そのくらい学のある人物でも新聞記事をちゃんと読まずに思い込みで脅迫をした。
 まさに感情的になったせいで文章が読めていない例だ。むしろ「読もうとしていない」といえる。

つまみ食い

 これも感情的であることの一例だ。
 「つまみ食い(チェリー・ピッキング)」とは、議論の際に、複数の事例の中から自分の意見に有利な事例のみを取り上げることをいう。
 文章を読むときにも、これと似た事象が起きていると思う。

 人は論考を読むとき、「ふむふむ、なるほど」とか「それはおかしいんじゃないか?」とか考えながら読む。全体の論旨を把握して自分の意見を出すには全体を読み終える必要があるが、読んでいる最中から論考を細かく分割し、部分部分で自分の考えを頭の中に出しながら読むことで理解を進めようとする。

 そのとき、ある部分で「この(部分の)意見はおかしい」と感じると、書き手への疑心・拒否感が生まれ、その時点で「この論考全体はおかしい」と結論づけてしまう。
 そして早速自分の意見を表明したいという自己顕示欲が生まれ「もの申したい」欲求が強まり、全体を理解せず、部分的な理解のままネットに書き込んでしまう。

 また、意見を述べた文章には、筆者の一番言いたいこと(主張・論点)がある。それを読み取るよう国語の授業では指導された筈だ。
 しかしつまみ食いが起きると、筆者の一番言いたいことは無視し、些末な誤りを指摘して全体を否定した気になる。

 ネットサーフィンをしている最中に、一つ一つの記事について全体を読んでじっくり考える余裕はあまりない。瞬間的に頭に浮かんだ意見が正しいと直ちに結論づけ、自己満足に浸る性質が人間にはあると思う。

スキーマの誤り

 人は文章を読むとき、1文字ずつ正確に目で追っているわけではない。

 学校で生徒に教科書を朗読させる際、生徒が細部を間違えて読み、本人がそれに気づかないまま朗読を進めることはよくあったのではないだろうか(空目という)。
 それは文字を目で飛び飛びで追っており、その間は予測で補間しているからだ。

 このことは タイポグリセミア現象日本人だけに読めないフォント からも伺える。

 この予測を心理学の用語でスキーマという。
 スキーマのために、人は素早く文章を読める。しかしこの予測が間違うこともあり、そうすると教科書の朗読のような誤りを起こす。
 ネット上の文章を読み誤るのも、このスキーマの働きが一因だろう。

 そうはいっても大抵の人は小・中・高校で国語のテストを受けてきた。文章が読めないほどのスキーマの誤りが起きていたら赤点の筈だ。
 これは学校のテストだったら自分の評価に関わるから真剣に読むが、ネット上の文章は適当に読むからだろう。それに加え感情的になっていることで文字を読む正確度が落ち、スキーマの誤りが起きやすくなる。だから読んでない所を自分に都合のいいように補間する。

まとめ

 多くの日本人には、基本的な文章読解力はある筈だ。しかし、

  • ネット上には感情的になりやすい文章が多いため、正確に文章が読めなくなる
  • スキーマによって、読んでいないのに読んだつもりになり、書かれていないことを読み取ったりする

 そのため、文章の内容をまったく理解せずに反論してくる人がたくさん生まれる。文章読解力はあっても理性が足りていない。

 そもそもネット上は便所の落書き程度にしか思っていない人も多く、ゴミのような書き込みが大半だ。反論の書き込みもそのつもりで気軽に適当に行っていれば、まともなものにはならない。

対応

 こういった文章の読めない人に絡まれたらどうすればいいか。

●まず怒らない
 こういう頭の構造が理解不能で信じられない人を見るとどうしても頭に来てしまうが、相手が感情的になっているということをまず理解する。感情的になっている人に何を言っても無駄だ。

●相手にしない
 感情的になっている人に「ちゃんと読め」と言ったところで読まない。だから相手にせず、放っておく。

●ブロックする
 話が通じない人を相手にするよりは、話が通じる人に語りかけた方が有益だ。世の中には無数の人がいる。わざわざネット上の会ったこともない、話の通じない人を相手にする必要はない。

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