〔約2900文字|読了の目安:5.8分〕
今の自炊(本を裁断してスキャンすること)界隈で一番使われているらしいドキュメントスキャナー(紙送りするタイプ)が、富士通の ScanSnap iX500A。
45,000円くらいする(高っ)この製品には重大な問題がある。300dpi 以下でスキャンすると、画質がとても、ひどく、甚だしく、とんでもなく劣化する。
〈目次〉
300dpiでスキャンすると汚い
600dpiでスキャンするときれい
考察
富士通の対応
過ちを認めない企業
10月30日 追記
300dpiでスキャンすると汚い
iX500A は JPEG 保存のみ(PDF保存も内部はJPEG)で、圧縮率は1(高画質)~5(低画質)まである。
しかし 300dpi でスキャンして圧縮率ごとに画質を比較すると、1~4まではほぼ変わらない。
『天然コケッコー』*1 1巻(ヤングユーコミックス/集英社) ©くらもちふさこ 以下同じ
*1: 傑作
ファイルサイズは1から順に〈878KB, 482KB, 394KB, 320KB, 168KB〉と、順当に小さくなっている。本来ならサイズが大きいほど画質が高い筈だ。
別のフラットベッドスキャナー(平らなタイプ)・CanoScan Lide 210 で 300dpi でスキャンし、Photoshop で JPEG 保存[高]にすると、ファイルサイズは 589KB になった。その画像と比べると、iX500A の方は圧縮率1でさえかなり劣化していることがわかる。
Lide210の方に黒いざらざらがあるが、これは紙の質感であり、正しくスキャンされている証。
600dpiでスキャンするときれい
一方、iX500A で 600dpi(圧縮率3)でスキャンしたところ、ノイズが見られない。
これを Photoshop で 300dpi に縮小し JPEG[高]で保存すれば、iX500A で 300dpi・圧縮率1でスキャンしたもの(878KB)より、はるかに高画質でファイルサイズの小さい 300dpi の画像(585KB)が得られる。
考察
以上のことからすると、iX500A は 300dpi 以下でスキャンする際、圧縮率にかかわらず一律に高圧縮な JPEG 圧縮をかけているようなことが窺われる。
にもかかわらずファイルサイズが順当だということは、その後また圧縮率に従った JPEG 保存をし、二重に圧縮しているのかもしれない。だとするとバグレベルの不具合だ。
富士通の対応
圧縮率1~4まで画質が変化しないが? とスキャンした画像と共に問い合わせたところ、20日後に
圧縮率によって、作成された画像の品質に差は生じますが、 スキャンされた原稿のレイアウトによっては、目視で確認しにくい 事もございます。
他のレイアウトの原稿でもご確認いただければ幸いでございます。
との回答。
毎日のように Photoshop を使っている自分からするとそんなことがないのは明白なのだが、別の画像でスキャンした結果を送り、その頃 300dpi 以下だと汚くなることに気づいたのでその旨を伝えたところ、ひと月以上返事が来ず。まともに取り合う気はないらしい。
10月30日 追記
2ヶ月後に返事が来た。
なお、誠に恐れ入りますが、300dpiでスキャンした場合と、600dpiで スキャン後に300dpiにした場合とは、画質は同じにはなりません。 前者の方が後者より画質が低下しますことをご了承の程お願い致します。
? 「画質が低下」ねえ? 画質といってもいろいろあるのだが、まさかピクセルの分布が違うとかいうことを言ってるんじゃないよね。JPEGノイズが異常に増えることを言ってるんだよね。でもそれならなぜノイズが増えるかの説明をしても良さそうなものだ。これだけじゃよくわからんな。
はい、これは「あいまいな答弁」 *2 というレトリック *3 です。
あいまいな答弁: 質問に対し、不明瞭で解釈しづらい返答をすることで、自分の責任を曖昧にする。質問に答えていないのに答えたかのような振りを装う。政治家が頻繁に使うことでおなじみ。
このレトリックが出たときのポイントは、「これを使う者は都合の悪いことを聞かれている」ということです。政治家の「記憶にございません」などの例を見ればわかるでしょう。
つまり富士通の人は「300dpi以下だとJPEGノイズが増えます」とはっきり言うと不具合として認めざるを得なくなるので、「画質が低下します」と曖昧な表現にしたわけです。
ということで、300dpi以下だと汚いのは仕様だそうです。
*2: 自分がいま名づけた
*3: 一般的には修辞法(文章に豊かな表現を与える技法。比喩など)のことだが、論理について語る場合には、論理を誤魔化すための手法、弁論術、印象を操作する方法を指す。
今後とも弊社製品の変わらぬご愛顧の程、心よりお願い申し上げます。敬具
他社製品を買うに決まってる。
過ちを認めない企業
今回の例を見てもわかるように、個人が企業に製品の不具合を突きつけてもなかなか認めず、ネットで炎上してようやく認める例が最近多い。
企業からすると、クレームはすべて面倒なものと感じているんだろう。クレーム内容が本当に直すべきものかどうかより、どうすればクレーム相手を黙らせるかを優先しているのだと思う。
不具合を直した方が製品の質は上がり企業イメージも上がり、長期的には利益になるのに、製品の不具合を認めて修理なり回収なりすると大変な手間と損失だから、無視して、なかったことにする。目先の短期的な利益しか見ていない。
昔、こんなことがあった。ゲームソフトの販売会社にクレームの電話が来た。それはゲームのパッケージの裏に写ってるゲーム画面が、実際のゲーム中に登場しなかったというもの。
それは開発中のゲーム画面がパッケージ裏に載ったものだった。電話を受けた担当者 *4 は悪びれずに「開発中のものが載ることはありますよ」と応えたが、常識的に考えてこれは許されることだろうか。ゲームパッケージの裏というのは、ユーザーがゲーム内容を把握するために参照するものだ。そこに実際のゲームと違うものが写っていたら詐欺になる。
電話相手もそれでは納得しなかったようで引き下がらなかったが、担当者は「それであなたはどうしたいんですか?」と逆に問いただし、一蹴していた。
このように、会社にとって個人のクレームなどただの邪魔者でしかないのだ。
*4: 性格にかなり問題のある人だった
ちなみにこの会社はその後、潰れた。
そして他の会社に吸収されたのだが、そこでもパッケージ裏に開発中の画面が載るという事態が起きた。するとその会社の担当者は、ブログでその件を公表し謝罪したのだった。
潰れる会社と潰れない会社の違いを見た気がした。




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