〔約3500文字|読了の目安:7分〕
テレビアニメ『ココロ図書館』(2001年・全13話)が人の心を打つ理由を考えてみたい。
『ココロ図書館』概要
人里離れた山奥にある小さな図書館。そこでは三姉妹が働いているが、利用者はほとんどやって来ない。三女のこころは利用者を増やすために奔走し、司書として成長するが、図書館の閉鎖の危機が迫る。そのとき、図書館の成り立ちが明らかになり……。
各話のタイトル
- 第一話「司書になります」
- 第二話「今の私にできること」
- 第三話「内緒のきりん先生」
- 第四話「司書のモットー」
- 第五話「狙われた図書館」
- 第六話「コンパロイドの司書」
- 第七話「こころがいない日」
- 第八話「お母さんに逢いたい」
- 第九話「奇蹟」
- 第十話「図書館がなくなる」
- 第十一話「ジョルディの日記」
- 第十二話「こころ あると いいな」
- 第十三話「ココロ図書館の冬」
考察
悪人が出てこないドラマ
この作品についてよくいわれるのは「悪人が出てこない」ということ。それでどうやってドラマを作るのかというと、第一話では「貸した本が返ってこない」という、図書館でよくあるだろう問題が描かれる。
貸した物が返ってこない経験は多くの視聴者にもある。図書館でよくある問題と視聴者によくある経験を結びつけることで、共感できるドラマを作り出している。
悪人を出さずとも、このような着眼点でドラマを生み出している点が巧みだ。
人の心の温かさ
だが、この作品の根幹はそこではなく、人の心の温かさを描くという点だ。各話で挫折や困難が描かれるが、それらは最終的に人の心の温かさに収束する。
例えば、本を返さない利用者に悪意はなく、温かい形で本が返ってくる。こころが司書試験を抜け出して延滞本を回収に行ったとき、利用者のためを思った気持ちを汲んでもらい、合格はもらえないが猶予をもらえる。
このようにドラマの最後まで温かさが貫かれるため、視聴者の心は満たされる。
第十一話・第十二話で温かさが結集する
それまで別々に登場していたキャラクターたちが、第十一話で過去に繋がりがあったことがわかる。それまで別々に存在していたキャラクターの背後に歴史があり、それらが繋がっていたという意外性がある。
第十二話で、こころは町の人たちの助けを得て市長の元へ行く。繋がっていた町の人たちとこころたちもまた繋がっていることが示される。
そのため、町の人たちは図書館の閉鎖に反対する。
現実的には、人々がほとんど利用しない図書館の閉鎖に反対するのは考えにくい。だが、物語の中で人々の心の温かさを描いてきた積み重ねがあり、それらが結集したたため、物語に入り込んでいる視聴者はその非現実さを受け入れられる。
非現実さと現実さの二面性
物語設定には、山奥で人が来ない図書館・売れっ子作家の姉・日本語と西洋風の混在など、非現実的・ご都合主義要素がある。これは見た目が萌えアニメだから許されている。
その一方、延滞本の催促・司書試験での処分・閉鎖問題など、描かれる困難は現実的で深刻だ。
視聴者は非現実的な設定はファンタジーとして受け取り、ドラマの部分は真摯に受け取る。受け取り方を変えることで、二面性のある話を違和感なく受け入れる。
これは、非現実的な設定(動物が喋るなど)に寓意を含めるお伽噺の構造に似ている。だから視聴者は、非現実的な設定であってもドラマ部分は真摯に受け取り、感動する。
箱庭的な魅力
低予算ゆえに登場人物が少なく、舞台も山と町が大半で、狭い。それにお伽噺のような非現実的な設定。それらが箱庭のような閉じられた魅力を生み出し、視聴者はその小さな世界を覗き込んでいるような感覚になる。
そこにある温かさは、かけがえのない小さな宝物のように、視聴者の胸に大事に仕舞われる。だから、この作品は人の心を打つ。
伏線解説
『ココロ図書館』は、同じ監督(舛成孝二)・脚本(黒田洋介)の『アンドロイドアナ MAICO2010』(1998年)と同様にさりげない伏線が多い。わかる範囲で以下に記していく。
《以下、ネタバレ注意!》
第十一話の伏線
第十一話の過去の戦争の話において、それまでに登場した人物、あるいはそれに関連した人物が登場する。それらは誰なのか。
- サン・ジョルディ……三姉妹の父親
- 看護婦/進藤ココロ……三姉妹の母親(第12話予告編・いいなバージョンで、こころに「お母さんの名前と同じ」と言っている。また、声優がいいなと同じ)
- ベッドで寝ている女の子/井上あかり……井上ひかり(第八話の小さい女の子)の母親(病弱)
- ドロイド/シュリ……コンパロイド/珠音(しゅね。第六話)の前身機
- 兵士/愛亀……怪盗ファニートータス(第五話など)
- 兵士/梶原……梶原警部(第五話など)
- 兵士/ウエザワ……運送屋の上沢の父親(温かい物を運びたいという話が共通している)
- 軍曹/百千(ももち)……美人市長(第十話で百千万理恵[ももちまりえ]と名乗っている)の父親
それ以外の伏線・小ネタ
●次回予告の声は誰なのか
声はこころだが、こころに語りかけているので、メッセージを発している本人はこころではない。
第十一話の次回予告で三姉妹に「愛しい娘たち」と言っているので、サン・ジョルディ。
●第五話・上沢のトラックが一瞬閉まる
上沢が連行された後、誰も乗っていない筈のトラックのドアが一瞬閉まる。これはファニートータスがトラックに隠れて乗って来たのではないかと思われる(気球で近づくとバレるため)。
●第五話・婦警たち
クレジットに「カージーズエンジェル」とあるので、チャーリーズエンジェルのパロディ。梶原警部だから「カージー」。
●第六話・珠音の処理音
コンパロイドの珠音(しゅね)とこころが最初に出会った場面で、こころが喋っているときに珠音の処理音がしている。これは『アンドロイドアナ MAICO2010』のMAICOの処理音に似ている。
●第六話・司書試験での確率
こころは珠音に「試験に合格する確率は40%」と言われて不安がるのに、「延滞本を取りに行って返してもらえる確率は20%」と言われたら「20%もある!」と、試験を抜け出して取りに行く。
これは自分のことは不安になりやすいが、他人を助けるためなら前向きになるという、他人への思いやりが強いこころの性格を表している。
●第八話・冒頭の鉄橋
第十一話でジョルディたちが破壊した後に再建した橋。第十二話でこころが「あの橋がそうなんだ」と言っている。
●第八話・写真を落とす
ひかりがじょうろで水をやっている場面で、ポケットから手を出したときに写真を落としている。後のカットでこころがその写真を拾う。
●第十一話・美人市長は外の人間
市長は父親に言われてココロ図書館のある町(都亜瑠村)にやって来ている。これは、外の人間だからココロ図書館が人々に愛されていることを知らなかったとするため。
父親は第十一話で「故郷に帰る」と言っている。これは都亜瑠村から離れた場所に住むことを示している。だから美人市長もそこで育ったと思われる。
●第十一話・サブキャラっぽいキャラはモブキャラ
美人市長とこころがベランダに出た後、図書館閉鎖反対のデモに集まった人たちの中に、それまでに登場したサブキャラたちが映り込む一連のカットがある。
その最初のカット、第一話の利用者(星野かえで。なぜか第一話と服装が違う)・第二話の担当編集者(佐伯さらら)が映っているカットで、その左に見覚えのない女性がいる。
これはサブキャラではなく、おそらくモブキャラ。その理由は、星野かえでと佐伯さららが画面中央に配置されており、この女性は端に寄っているから。サブキャラなら3人合わせて画面中央に配置される筈。
アニメーターがちょっと描き込みすぎたため、サブキャラに見えてしまったと思われる。
●第十一話・デモの中に美人市長の秘書がいる
前述のデモに集まった人たちの中、岡嶋朱葉と岡嶋みどりの後ろに、第十話で登場した美人市長の秘書(水元らいか)がいる。
秘書なんだから市庁舎の中にいる筈なのだが、仕事を放り出してデモに参加したらしい。第十話でひめみやきりんのファンなことを示しているので、図書館の廃止にも反対だったようだ。
●サン・ジョルディとは
スペインの風習で、本を送る日。4月23日。父親の名前はこれが元になっている。
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