〔約2000文字|読了の目安:4分〕
「VTuberとリスナーの不健全な関係」に書いたように、「VTuberに承認されたい」というリスナーの承認欲求からスパチャなどの競争が始まる。
しかしその前の段階に目を移せば、まずVTuberの「たくさんのリスナーが欲しい」という承認欲求から配信活動が始まっている。
ではVTuberとリスナーが相互に承認し合えば相互補完でき、平穏無事に済むのではないかと思えるが、そうはならない。
〈目次〉
「1対多」のすれ違い
人間の価値には差がある
VTuberとリスナーの力関係は逆転する
「1対多」のすれ違い
それは、VTuberとリスナーの「1対多」という関係にある。
VTuberは多数のリスナーから広く浅い支持(承認)を集めようとする。
それに対し、リスナーはVTuber1人からの承認を求める。しかしVTuberには多数のリスナーがいる以上、自分だけが特別扱いしてはもらえない。そこで「特別な存在」として承認されるため、スパチャなどの競争に参加する。
VTuberの求める承認は多数、リスナーの求める承認は個別。非対称ですれ違うため、相互補完はできない。
人間の価値には差がある
VTuberとリスナーは価値が釣り合わない
VTuberは自分の価値を高めるために喋りの技術を磨いたり、Live2Dや3Dにお金をかけたりと努力する。配信の場ではそれらの魅力を十分に表現できるようになっている。
それに対しリスナーはどこの馬の骨ともわからない一般人に過ぎない。それに配信でリスナーができることはチャットとスパチャくらいで、表現方法が制限されている。
だから配信の場においては、人間の価値はVTuberの方が高く、リスナーは低い。1対1では価値が釣り合わない。VTuberは1人、リスナーは多数という、
[VTuber=リスナー+リスナー+リスナー……]
という力関係で釣り合う。
人間の価値
ここで言う「人間の価値」とは何か。他人からどれだけ価値のある人間だと思われるかだ。VTuberでいえば[性的魅力・華やかさ・(喋りや歌などの)才能・性格・有名性・社会的評価]などが基準になる。
これらの要素は、社会で有利に働く能力、「文化資本」と呼ばれる。人間は他人を見たときにこれらの要素を計り、好ましいと思えば、その人の価値を高く評価する。
SNSで無名の一般人にフォローされても何とも思わないが、有名な芸能人にフォローされたら驚くし、うれしい。それは、一般人と芸能人の価値にそれだけ差があるからだ。
価値の高い人に承認されれば、大きい承認を得られる。価値の低い人に承認されても承認欲求は満たされない。
VTuberもリスナーも競争している
VTuberは、リスナーに承認を与えるために自分の価値を高めようとする。様々な技術を磨き、リスナーが増え、価値が高まる。価値が高まるほど影響力が増し、多くのリスナーに強い承認を与えられるようになる。だからVTuberはリスナーを増やそうと努力する。
●リスナーとVTuber、それぞれの競争
・リスナー:VTuberから個別の承認を得るためにスパチャなどの競争をする
・VTuber:多数のリスナーの承認(支持)を得るために競争をする
お互いにすれ違った承認を求めながら競争を強いられる構造になる。だから歪みを生み、苦しさを伴う。
VTuberとリスナーの力関係は逆転する
一見、低姿勢なVTuberだが……?
VTuberの価値が高いと言っても、VTuberはリスナーに対して低姿勢で、リスナーが来たら歓迎するではないか、と思うかもしれない。
それは、リスナーが少ないうちは相対的に一人のリスナーの価値が高まるからだ。つまりリスナーが10人しかいなかったら一人のリスナー価値は1/10だが、リスナーが1万人いれば1/10000になる。リスナーが増えるほど一人あたりのリスナーの価値は下がる。
だから登録者数の少ないうちは、登録者数を今より増やすため、VTuberは一人ひとりのリスナーを大事にする。登録者数が増えれば、一人ひとりのリスナーが辞めようが気にしないし、媚びることもない。
《リスナーの数によって、VTuberとリスナーの力関係は逆転する》
リスナーが少ない[VTuber<リスナー]
●VTuberが劣位
・VTuberはたくさんのリスナーを欲しがり、愛想を振りまく
●リスナーが優位
・リスナーはいつでも他のVTuberに移れる
●コミュニティへの影響
・VTuberへの距離が近いため、リスナーは個人的な好意を抱きやすい
リスナーが多い[VTuber>リスナー]
●VTuberが優位
・VTuberにとって、一人ひとりのリスナーは重要ではなくなる
・他にいくらでもリスナーがいる
●リスナーが劣位
・希望に添わないリスナーは辞めてもらって構わない
・VTuberに個人的な好意を抱かれても迷惑
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