妊産婦の自殺は多くない
「いのち支える自殺対策推進センター」(以下JSCP)が「3年間で162人」という妊産婦の自殺者数を公開し、Yahoo!ニュースとNHKで報道された。ネット上では産婦人科医も「妊産婦は大変なのに支援が足りていない」という論調を展開しているが、これはミスリードだ。
令和6年の20~40代女性の自殺率(10万人中)は12.5人、それに対して妊産婦の自殺率は約3.1人であり、約1/4という少なさだ。これは以下の動画にまとめた。
妊産婦の自殺率のおかしさ
妊産婦の自殺が多いように見せかけたのはマスコミの報道がミスリードだったのだが、元となったJSCPが発表した資料、「いのちを育む妊産婦の危機 ~自殺の実態と今後の課題~(2025年度版)」を見るとさらなる問題が見つかる。妊産婦の3年間の自殺率が「7.3」と書いてあるのだ。実際には、3年間でも約3.6人である。
この数値の違いの原因は、自殺者数を割る分母にある。資料には
自殺死亡率の分母に用いた出生数は(2022年の出生数)+(2023年の出生数)×2 で算出した(p. 8)
とある。これだと分母は「3年間の出生数」となり、それを3年間の妊産婦数にしていることになる。
しかし、この資料で扱う「妊産婦」の定義は、
妊娠中および産後1年以内(p. 5)
前年に出産した人も含めるため、年間の出生数の約2倍になる。だから分母とする3年間の妊産婦数は、出生数の約6倍にしなければいけない。
JSCPの計算だと分母が半分なため、自殺率が約2倍になっている。例えると、
・今年の妊婦が70万人で、うち22人が自殺したとする
・今年の産後1年の人が75万人で、うち22人が自殺したとする
この自殺率を求めるのに、「44人÷70万人×10万=6.3人」と計算しているのと同じだ。分子が2年分あるのに、分母が1年分になっている。明らかな計算ミスだ。
(自殺率は一般的に、10万人中の人数で表す)
JSCPの苦しい言い訳
自殺率について「計算ミスではないか」とJSCPに問い合わせたところ、以下の回答が来た。
このように算出した理由のひとつは、政府統計にもある「妊産婦死亡率」という指標が類似の計算方法で算出されていることが挙げられます
国際的にも、妊産婦の自殺死亡率の文脈では、出生数を分母とするのが一般的となっています。
年齢階級間の傾向の違いをお見せするために、参考として全女性の自殺死亡率のグラフを薄い色で重ねて示しています。
これらの回答はどれも無理があり、屁理屈だ。以下に見ていく。
政府統計の妊産婦死亡率と同じだ
これは厚生労働省のデータと思われる。ここやここで確認できる。
だが厚労省の妊産婦の定義はJSCPとは違う。
厚労省の「妊産婦」:1年間の妊娠中又は妊娠終了後満42日未満
JSCPの「妊産婦」:妊娠中および産後1年以内
厚労省の定義は約1年分、JSCPの定義は約2年分だ。にもかかわらず、分母は同じ値を使用しているから、JSCPの自殺率は約2倍になる。
政府統計と同じどころか、数値の比較ができないデータになってしまっている。
国際的にも妊産婦の自殺死亡率は出生数を分母とするのが一般的
これはその通りだ。だが、ここでも妊産婦の定義は厚労省と同様、約1年分になっている。
https://www.who.int/data/gho/indicator-metadata-registry/imr-details/26
during pregnancy and childbirth or within 42 days of termination of pregnancy (妊娠中および出産中または妊娠終了から42日以内)
傾向の違い見せるためにグラフを重ねた
これは明らかに屁理屈だ。同じグラフ内に棒を並べたら、それは同じ性質のデータで、直接比較できるものだと解釈されるのが常識だ。分母が異なるデータを並べるのは統計学的に誤りだ。中学校でもこんなグラフを描いたら×になる。
JSCPの印象操作
JSCPのおかしな計算は、計算ミスではなく意図的なものだった。
グラフの自殺率も「10万人」ではなく「10万出生」と書かれている。「10万人」だと正しい自殺率にしなければならないから今のデータだと嘘になるが、「10万出生」であれば嘘にはならない。「データがおかしい」と言われても「嘘は書いていない」と言い訳できるようになっているのだ。
とすると意図的に「妊産婦の自殺が多い」とミスリードしていることになる。これは、JSCPが「女性(特に妊産婦)は困難な状況にある」と印象操作しようとしていることが疑われる。
このような周到なミスリードは虚偽よりも悪質だ。
- 知的な装いをして人を騙す
- 権威を利用して世間に嘘をばらまく
- 責任逃れできるようになっている
自殺の統計は以前からある
JSCPが発表した資料には、
2022年1月より、女性の自殺者については、妊娠中あるいは産後 (1年以内)に該当することが把握された場合、その状況に関して 記録されるようになった(p. 5)
以上の所見は、2022年~2024年の3年間のデータに基づくものである。 継続的なデータの観察と、妊産婦の自殺対策の更なる推進が求められる。(p. 16)
とあり、妊産婦の自殺の統計はここ3年で把握されるようになったかのように受け取れる。
しかし実際には以前から統計はあり、日本産婦人科医会が発表している「自殺による妊産婦死亡について」に載っている。ここでもJSCPは、妊産婦の自殺が近年明らかになった問題であるかのような印象操作を行っている。
まとめ
以上のことから見えるのは、JSCP、いのち支える自殺対策推進センターは客観的で公平な発表をする組織ではなく、印象操作を行い世論を誘導することを目的とした偏向した組織だということだ。
ここは法律に基づいて設置された公的な法人だ。それがこのような詐欺まがいの、バイアスのかかった発表を行っている。
公的な組織であっても、特定の人脈や思想が影響し、中立性が崩れていることがあるということだ。

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